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「ある女流作家の罪と罰」(18年・アメリカ) 落ちぶれた女流作家が有名人の手紙捏造に手を染める実録ドラマやん

ある女流作家の罪と罰
アカデミー賞にノミネートされた秀作だからって、日本で劇場公開されるとは限らないみたい。

この「ある女流作家の罪と罰」も、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞の3部門でノミネートされ、批評家からも絶賛されたらしいのに、劇場未公開でソフトスルーとなっちっち。

ま、主演が女性版「ゴーストバスターズ」(16)のメリッサ・マッカーシーと日本じゃ知名度がいまいちなポッチャリ女優だし、実在した女性作家リー・イスラエルって人の自伝の映画化といっても作家自身を知らないしね。

最初は、あまりこの作品に興味がなかったんだけど、監督が「ミニー・ゲッツの秘密」のマリエル・ヘラーと知って、俄然見たくなりレンタルしたんよ。
「ミニー・ゲッツの秘密」(14)は、15歳の女の子のセックスへの好奇心と心の成長を
ユーモラスかつビビッとに描いた佳作で、僕のお気に入りの作品だったからね。

で、「ある女流作家の罪と罰」は、孤独な主人公の心情を丁寧かつ「ミニー・ゲッツ-」同様ビビッとに描き、
なかなか見応えがあって面白い作品だった。
詐欺事件を起こしてしまうヒロインを弾劾するのでもなく、と言って同情するのでもなく、
生活のためにタフに生きようとするヒロインの姿を、そっと見つめているようなタッチで描いていて、
観終わってなんだか不思議に、ほっこりとした前向きな気分にさせられるんよね。
すっぴんで挑んだメリッサ・マッカーシーの演技力もあっぱれって感じで、
なるほど主演女優賞ノミネートも納得。
もし彼女が女優賞をゲットしていたら日本でも劇場公開されたかもしれない、
ってこともないか、やっぱり。

1991年、伝記作家として活躍していたリー・イスラエルは
今ではすっかり落ちぶれ、文筆業では生活できず、校正のアルバイトで食いつないでいた。
でも、そのアルバイトも首になり、困窮生活まっしぐら。
そんなとき、キャサリン・ヘップバーンが彼女宛てに書いた手紙があったことを思い出し、
書店に売りに行くと、思わぬ高値で買い取られた。
有名人の手紙、中でもセンセーショナルな内容のものが高く売れると知ったリーは、
有名人の手紙を捏造(ねつぞう)するビジネスを思い付いた。
書店が食いつきそうな有名人の裏話が書かれた手紙を次々と書いては、
金にしていくリーだったが、やがて捏造が疑われ、FBIに目を付けられてしまった…。

オープニングは、校正のアルバイトをクビになり、
作家やエージェントが集まるパーティに出向いてトイレットペーパーをくすねたり、
極貧状態に陥っていく主人公を手際よく見せる。
恰好も構わず、酒好きでズボラ、掃除もほとんどせず、
部屋に臭い匂いが充満していても平気な暮らしっぷりもなかなかリアル。
困窮生活に追い詰められネコのジャージーと共に孤独に暮らす主人公を、
適度な生々しさと軽さで、鮮やかに映像に切り取っていくな。

ゲイのジャックと知り合い、友情を深めていくところも、実にナチュラル。
リー自身、レスビアンらしいと思わせるところもあるけど、あえてそこには踏み込まない。
実在のリー自身がそうだったのかどうか分からないけどね。

出版業界をちょい皮肉っぽく描写するところは、ありがちな気もするけど、
主人公の追い詰められた心情を納得させられ、悪くはない。

結局、主人公は逮捕され、裁判にかけられるんだけど、
それでも心が折れないというか、自分の捏造事件をもとに自伝を書くと言う
なんともタフで前向きな精神に、ちょっと拍手を送りたくなってくる。

主人公を演じたコデブな体型のメリッサ・マッカーシーは、
コメディ系の女優さんだけど、微妙に表情を変化させて演技派としての実力を見せつけるな。
人当りが悪く性格ブスなところもある主人公を、監督の演出のおかげもあると思うけど、
あまりイヤミにならず、とても自然体で繊細かつ巧妙に演じてるのよ。

主人公の手紙捏造の相棒となるジャックを演じたのはリチャード・E・グラント。
心優しいがお調子者で遊び好き、ゲイライフの果てにエイズを発症する中年男を、
これまた自然体で、気張らずさらりと演じている。
やっぱり上手い俳優さんだと、改めて思ったわ。

捏造事件が発覚し、裁判が終わってリーとジャックが久しぶりに会うラストシーン、
互いを悪く思いながらも、心が良い感じで触れあっていくところは、
なんとも胸にぐっとくる名シーンやん。

脇役で印象に残ったのが、書店を営む女性アンを演じたドリー・ウェルズ。
リーにレスビアン的な思いを寄せている節もある少々控えめな女性で、
素人ながら短編小説を書いて、リーに読んでもらおうとするんよね。
で、リーも彼女と親しくはなっていくんだけど…。

1990年代を切り取ったニューヨークのどこかノスタルジックな風景もベリーグッド。

とにかくミニシアター向けって感じの映画だけど、
人間ドラマとして、適度な深刻さと明るさ、それにユーモアが交じりあった、
なかなかの佳作であ~りました。


20世紀フォックス・ホームエンターテイメント・ジャパン 2019年7月3日レンタルリリース



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テーマ : DVDで見た映画
ジャンル : 映画

プロフィール

森晴樹

Author:森晴樹
大阪市東成区大今里生まれ。大阪市内を転々とし、いつのまにか僕が生まれた町、大今里に舞い戻ってきてしまいました。
情報誌、PR誌の編集・原稿執筆を経て、現在はフリーライター。クロスワード他、クイズ製作もこなしとります。趣味は、DVDで映画鑑賞。

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