「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」(08年・イギリス) 暴君・ウェルズに振り回される演劇志望の高校生の、甘酸っぱくてほろ苦い物語でおまんにやわ

僕と彼女とオーソン・ウエルズ

今さら言うのもなんだけど、
アメリカ映画史にその名を残す「市民ケーン」(41)。
子供の頃、NHK教育テレビでこの作品を見た記憶がかすかにあり、
あまり話は理解できなかったけど(何せ幼かったんで)、
大胆な構図のモノクロ映像の美しさだけは印象に残ってる。
数年前に、もう一度見てみたいなと思い、
500円の廉価版DVDを買ったことあるけど、
傷だらけでボヤケタ画質にガックリ・クリクリ・クリックリ!でおましたわ。
ムカムッカ!
ま、それはともかく、この映画を監督・主演したのがオーソン・ウェルズ。
彼が、ニューヨークで劇団を主宰し、野心的な舞台に情熱を傾けていた20代前半の時に、彼と出会い、彼の舞台に立つことになった高校生を主人公にした物語が、本作でおます。
どうも実際に若者が短期間だけ劇団に参加したことがあるらしく、それを基に書かれたロバート・カプロウの小説を映画化したんだそう。

原題は「ミー・アンド・オーソン・ウエルズ」だけど、
商売を考慮したのか「彼女」って言葉をプラス。
それで、映画好きの女性にもアピールしようとラブロマンス色を匂わせたみたいね。

1937年、ニューヨーク。
演劇志望の高校生リチャードは、ブロードウェイでオーソン・ウェルズと出会い、
気にいられて、彼が主宰する劇団がマーキュリー劇場で一週間後に上演する舞台「ジュリアス・シーザー」の
旗役に出演することになった。
リハーサルで見た、ウェルズの横柄で身勝手な独裁者ぶりに驚きながらも、
彼のありあまる才能に魅入られるリチャード。
ジョセフ・コットンなど劇団のメンバー達とも親しくなり、
劇団の事務担当のソニアに抱いたほのかな恋心も、トントン拍子に真剣な恋へと進む。
そして、舞台当日を迎えるが‥。

スイングジャズっぽい音楽が流れる冒頭から、オールディーズ・ムード満々。
衣装や美術など、1930年代の時代色が、丁寧に再現されているな。

ブロードウェイにやって来たリチャードが、最初に出会うのが同年代のグレタ。
楽器店で、ガーシュインの曲をピアノで弾きながら、
ガーシュインが亡くなったと落ち込んでいる彼女を元気づけるんだ。
話が弾み、「私は、芝居を書きたいの。
私の書いたモノがニューヨーカー紙に載るのが夢なの。
でも、学校の先生からは『見込みはある』と言われるだけ。
『才能がある』と言って欲しいのに。私の作品、ニューヨーカーに載せられるかな」
グレタの問いかけに、ちょっと間を置き「見込みはある」と答えるリチャード。
ムフフッとさせよるやん。

まだ自分が何ものなるかわからない将来、夢を追いかけている若者達の姿が、
なんかマブシー!って気がしたな。
僕にとっちゃ、夢を追いかけるなんて、はるか昔のことだっただけにねぇ。

楽器が弾けたことが幸いし、劇団員となったリチャードが、
劇団メンバーから教えられるルールが「ウェルズを批判しないこと。そして彼の態度に目をつぶること」。
実際にリハーサルが始まるや、ウェルズの専制君主ぶりったら半端じゃない。
それでも、多少の反発は覚えながらも、ウェルズの意向をくみ取っていくメンバーたち。
カリスマ的な彼の才能を信じ切っているからなんだ。
すごい才能を持った人間の前では、誰でもひれ伏してしまうかもねぇ。

ウェルズの横暴ぶりに、彼の良き協力者ジョン・ハウスマンも、
根を上げて、突き放すような態度に出ることもあるけど、
それでも、結局は一緒に舞台を成功させようと頑張っちゃうしね。

ウェルズが、ラジオの生放送ドラマに出演する時、
リチャードを連れて行くんだけど、車中で彼に、
小説「偉大なるアンバーソン家の人々」を見せ、
全てを失う男の物語で、主人公が私の父に似ているんだと話す。
その後、ラジオスタジオでの生放送の時、脚本を勝手に変え、
「偉大なるアンバーソン−」のセリフを入れてしまう。
他の声優達は戸惑ってしまうんだけど、なぜかおとがめ無し。
やっぱ、彼の才能を認めざるを得ないんやろね。
しかし、ウェルズのほんまに傍若無人ぶりもはなはだしいやんかいさぁ。

この「偉大なるアンバーソン−」は、ウェルズが42年に映画化しているけど、
ずっと以前から愛読していたんだね。

リチャードは、失敗をやらかしながらも、劇団に馴染んでいき、ソニアと一夜を過ごすことも出来た。
彼は、ソニアを愛していると思いこんでいたが、ソニアはそうではなかった。
彼女は自分の夢を実現させるために、ウェルズとも‥。

ラストに、リチャードは美術館でグレタと会い、彼女から感謝される。
ソニアのつてでグレタの書き物をニューヨーカー誌編集部に持ち込むことができ、
なんと掲載が決まったのだ。
彼女は、夢に一歩近づいたんだ。

リチャードの夢はまだどうなるか判らないけど、グレタに勇気づけられたようだね。

コットンから「君は何者だ。将来はどうなる」とリチャードが問われる場面があるけど、
自分が何者になるか、それを見つけるのは自分自身でしかない。
まだ若いんだ、これからそれを見つけていこう、諦めず希望を胸に抱いていかなきゃ。
そんなリチャードの思いを感じさせるラスト。
胸がちょいキュンと来てしまいましたわさ。

監督は、リチャード・リンクレーター。
インディペンデント映画界で注目され、「スクール・オブ・ロック」や
実験風の「スキャナー・ダークリー」を撮ってる人だけど、
本作じゃ、オーソドックスな演出タッチで、リチャードを軸に、
ウェルズ劇団の人々を丁寧に描いて見せてるな。

主演は、アメリカのヤングスター、ザック・エフロン。
TVドラマ「ハイスクール・ミュージカル」でブレイクした若手らしいけど、、
いかにもなアイドルフェースが苦手な僕は、彼の出演作ってほとんど見ていない。
見たのは「ヘアスプレー」ぐらいかな。
本作じゃ、アイドル臭はほとんどなくて、演劇に憧れる高校生を、とてもナチュラルに演じてる。

オーソン・ウェルズ役は、クリスチャン・マッケイ。
初めて見る俳優さんだけど、20代のウェルズを、存在感たっぷりに力演。
英国アカデミー賞で助演男優賞、英国インディペンデント映画賞にノミネートされるのも納得の名演技よ。

他に、グレタ役は、エリア・カザンの孫娘らしい、ゾーイ・カザン。
美人じゃないけど、劇作家志望の女の子ってこんな感じやろなってのをうまく出してる。

ソニア役は、バズ・ラーマン版「ロミオとジュリエット」のクレア・デインズ。
「ロミオ−」の時は、清純な美女だったのに、なんかちょいブサイクになったように思うのは僕だけか。

本作には、オーソン・ウェルズを始め、映画界で活躍した実在した人物がいろいろ登場するね。
ジョン・ハウスマンも、俳優・映画プロデューサーとして名をはせた人で、演劇界でも大物的存在。
映画制作作品には「炎の人ゴッホ」「明日になれば他人」、
出演映画にはウディ・アレンの「私の中のもうひとりの私」、「ザ・フォグ」「裸の銃を持つ男」などがあり、
「ペーパー・チェイス」(74)で、アカデミー助演男優賞を受賞してる。
劇団メンバーのひとり、ジョセフ・コットンは、ウェルズの「市民ケーン」で映画デビューし、
同じウェルズ作「黒い罠」、ヒッチコックの「疑惑の影」、キャロル・リードの「第三の男」と
結構名作が多い俳優さんだ。
「僕と−」じゃ、女好きのやさ男ってイメージで登場してるな。実際にスケベな男やったんやろか。
同じ劇団員のノーマン・ロイドは、ヒッチコック作品「白い恐怖」や「逃走迷路」に出演している。
多分、他の劇団メンバーも、映画界で活躍している人がいるんだろうな。

とにかく、往年の映画を色々見ている映画ファンなら、興味深さたっぷりでおます。
ソニアが、後半、大きく飛躍するために
大物映画プロデューサー、デビッド・O・セルズニックに会いに行くってシーンもあるし。
セルズニックと言えば「風と共に去りぬ」の製作者よ。

自分のなりたいもの、自分のしたいこと、それを追い求め続けること。
そして、なりたいものに近づくよう頑張ること。
そんなことを、さりげなく語ってくれる、僕にとっちゃ、なかなか心に響くものがある映画でした。

さてさて、君のなりたいものは何でしょね?

オンリーハーツ 2011年12月21日リリース



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プロフィール

森晴樹

Author:森晴樹
大阪市東成区大今里生まれ。大阪市内を転々とし、いつのまにか僕が生まれた町、大今里に舞い戻ってきてしまいました。
情報誌、PR誌の編集・原稿執筆を経て、現在はフリーライター。クロスワード他、クイズ製作もこなしとります。趣味は、DVDで映画鑑賞。

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