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「穏やかな暮らし」(10年・イタリア・ドイツ・フランス) 平穏に生きたかった暗い過去を持つ男を描くマカロニ・ノワールに、ちょいシビれたやん!

穏やかな暮らし

イタリア版アカデミー賞で10部門を受賞したヒューマン・ミステリー「湖のほとりで」(07年)をDVDで観て、主役の中年刑事役トニ・セルビッロの渋さが光る味わい深い演技を目にし、彼のファンになってもた。
認知症を患い療養生活を送る妻を気遣いながら、田舎町で起こった殺人事件を追う、生真面目で実直なベテラン刑事を、説得力たっぷりに好演していたのよ。ラストの、娘と2人で妻を見つめる優しく暖かな眼差し、グッときたなぁ。
そんな彼が、今度は刑事と正反対の役柄を演じてるってことで、観てみようと思ったのが、この「穏やかな暮らし」。
こちらもイタリア・アカデミー賞4部門にノミネートされ、ローマ国際映画祭じゃ、トニは最優秀男優賞をとってるし、ハズレな作品じゃないと思ったんだ。
日本じゃ去年、「イタリア映画祭」で上映されたらしい。
タイトルから、人情味漂う人間ドラマかなって勘違いしそうだけど、実はイタリア・ギャング組織が絡んでくるマカロニ・ノワール。
映画のエンドクレジットに流れる、本作のテーマソングともいえる歌を聞くと、なるほど、「穏やかな暮らし」って納得のタイトルと実感したわさ。
哀愁味があって、メロディーもなかなか良いのよねぇ。CD出ないかしらねぇ。you-tubeで探してみようかな。

ドイツの田舎町でホテル・レストランを営むイタリア人ロザリオとドイツ人の妻レナーテ。
ある日、イタリア人の若者ディエゴとエドアルドが訪れ、宿泊することになった。
ディエゴからロザリオは遠い親戚と聞いていたエドアルドは、
ロザリオがディエゴを愛おしむように抱きすくめる姿を見て、いぶかしく思う。
実は、ディエゴ達は、イタリアの暴力組織から要人暗殺のために送り込まれたヒットマンだった‥。

DVDのジャケット裏のストーリーを読まずに借りて見たので、
最初、ロザリオとディエゴの親密っぽい関係が、なんだかゲイっぽくもあり、
どうもよく解らなかったんだけど、ロザリオとディエゴ達がパブに行ったところで、
ロザリオが、「息子」と言ったので、親子だったのかと納得。
でも「息子」と言うのは、そのシーンの一言のみ。

どうも、クラウディオ・クッペリーニ監督は、説明的なセリフを最小限に止め、
登場人物の表情や仕草、行動をとおして、映像で物語を語ろうとしているみたい。
だからなのか、シャープで端正な映像に力みたいなもんを感じるな。
前半は、どちらかというと淡々としているんだけど、ムダに見える描写がほとんどないと思える。
かなり緻密に映像を積み重ねてるって感じよ。

ディエゴ達が、ターゲットに狙いをつけ、銃をぶっ放すところから、
物語に、ノワールの匂いが立ちこめ始める。
それまで物静かに進んでいたストーリーに、ジワリジワリと緊張感が滲み出すんよね。
そして、エドアルドがロザリオの正体に気づいてしまい‥。

”穏やかな暮らし”がしたかったロザリオ。
でもそれが許されない状況に追い込まれてしまい、
とんでもない行動に出ることに‥。

人は過去から、なかなか逃れることはできない。
過去の行為は、いつのまにか現在の自分を、その過去へと引きずり戻そうとしてしまう。

ロザリオの店の客である牧師が病に倒れ、
病院を訪れた彼が、昏睡状態でベッドに横たわっている牧師に言う。
「私は何人も殺した。転向し、息子も家族も信用も捨てた。
神は新しい人生(穏やかな暮らし)をくださった。
でも今、それを取り上げようとなさる。神は人を助ける気などないのだ」
それは懺悔ではなく、ほとんど恨み節とも言える告白だ。

ロザリオが、なぜ15年前に自分が死んだことにして、家族を捨て、
”穏やかな暮らし”を求めてドイツに来たのかは語られない。
そこんところは、見る者の想像にゆだねようとしているみたい。

”穏やかな暮らし”を求めるロザリオの心情が、物語の骨子で、
それにまつわる周囲の物語は、必要最小限に止めようと、監督が意図しているみたい。

ただ、父と息子の愛憎関係は、結構丁寧に描かれてる。
ロザリオは、レナーテとの間に幼い息子マティアスがいるんだけど、
ディエゴがマティアスと親しくなるのを、2人が母違いの兄弟だけに、
ロザリオが複雑な表情で見つめるところなど、
3人それぞれの感情が織りなす微妙な空気が画面に漂うところ、
さりげないんだけど、なかなか上手い演出だと思ったな。

監督は、人物の仕草や表情など、セリフではなく映像で語ろうとしているだけに、
演技の達者な俳優をキャスティングしたようで、
ロザリオ役のトニ・セルヴィッロ、それに応えて、自然体で主人公を見事に演じて見せてる。
ネットで調べたら、1959年生まれだから、本作出演時は、51歳。
でも、映像で見るセルヴィッロは、薄い白髪で、髭も白く、顔にシワが刻み込まれ、50代後半に見える。
「湖のほとりで」(07年)が48歳の時だけど、その時もかなり年寄りくさく見えたし、
老け顔なのね、トニさん。イタリアの井上達夫(吉本新喜劇)じゃあ~りませんか。
背筋がシャンと伸びてて、贅肉もそんなになく、体つきは年相応みたいだけど。
しかし、生真面目な刑事役から、元殺し屋まで、演技力の幅が広い人みたい。
イタリアを代表する名優とか言われてるらしいけど、ま、それも納得ね。

妻レナーテ役は、ドイツ女優ユリアーネ・ケーラー。
「名もなきアフリカの地で」(01)「ヒトラー 最後の12日間」(04)でヒトラーの愛人役など、
僕は本作で初めお目にかかったけど、ほんのり色香漂う、ベテラン女優みたい。
出番は少ないけど、不可解な行動をとるロザリオを不審に思いつつも、
愛ゆえに彼を信じようとする、けなげな妻を好演。
そして、息子ディエゴにマルコ・ダモーレ、エドアルドにフランチェスコ・ディ・レヴァ。
ネットで調べても全く詳細が解らないんだけど、
マルコは、坊主頭で見た目厳ついのに、久しぶりに会う父を慕いつつも、
自分は父とは違う生き方をしようとするディエゴを、結構繊細に演じてみせてる。
女好きで少々無鉄砲なキャラを演じるフランチェスコも、いかにもチンピラっぽい匂いプンプン。
フランチェスコとセックスフレンドになる、ロザリオのレストランで働くドリス。
名前は判らないけど(多分ドイツの女優さんだと思う)、キュートな魅力があって、
肉感的なヌードも披露するし、誰か名前を知ってたら教えて欲しいやんかいさぁ。

ラストのロザリオの決断。
”穏やかな暮らし”を求める彼の気持ちが理解はできるけど、あまり共感はできないな。
だって自分本意で、ちょっと身勝手過ぎる気がするから。
ひょっとしたら、家族のことを思ってそうしたのかもしれないけど。

ロザリオとは状況は違うけど、
今とは別の生活、別の生き方、やってみたいなぁと、たまに考えることがあった。
歳食ってくると、気力も体力も、どうにもこうにもアキマヘン!なんやけどね。ほんまに。


オンリー・ハーツ 2012年4月6日レンタルリリース



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森晴樹

Author:森晴樹
大阪市東成区大今里生まれ。大阪市内を転々とし、いつのまにか僕が生まれた町、大今里に舞い戻ってきてしまいました。
情報誌、PR誌の編集・原稿執筆を経て、現在はフリーライター。クロスワード他、クイズ製作もこなしとります。趣味は、DVDで映画鑑賞。

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