「バレー・オブ・バイオレンス」(16年・アメリカ) 流れ者が、殺された愛犬の復讐に燃えるヘンテコリンなウエスタンでおます!

バレー・オブ・バイオレンス
僕のお気に入りのホラー映画の1本「インキーパーズ」(11)の監督タイ・ウエストが、制作・脚本・編集・監督の4役を兼任し、西部劇にチャレンジしたのが、この「バレー・オブ・バイオレンス」。
主演が、タイム・パラドックス・ムービーの佳作「プリデスティネーション」のイーサン・ホークで、共演が「パルプ・フィクション」「ミッドナイトクロス」のジョン・トラボルタとスターが揃っているのに劇場未公開とはこれいかに?
よほど映画の出来が悪いんとちがうかと思ったんだけど、ウエスト監督が西部劇をどう料理するのか気になって、眉に唾つけて見てみることにしたんよね。

で、これが正統派ウエスタンのようでいて、どこかズているというか、微妙にシリアスで微妙にユーモラス、でもって微妙にエンタテイメントしている、なんともヘンテコリンな印象だったな。
出そうで出ない便秘気味のウンチってところまではいかないけど、なんかスッキリしないとうかね。

愛犬アビーを相棒にメキシコを目指す流れ者ポールは、
荒野にぽつんある小さな町デントンにたどり着いた。
街の酒場で、ポールは保安官代理のギリーと些細なことでトラブルとなり、
彼を殴り倒したことから、ギリーの父で町を牛耳る保安官マーティンが現れ、
このまま町を出て行くなら逮捕しないでおこうと言われ、ポールはそれに従った。
だが、荒野で眠っているときに、根に持ったギリーが仲間を連れて現れ、
愛犬を殺され、ポール自身も崖から突き落とされた。
なんとか一命を取り留めたポールは、
痛む体もなんのその、愛犬の復讐のため、
ポールは再び町に舞い戻ろうとするが…。

オープニングタイトルが、一昔前のマカロニウエスタン・チックなアニメ風で、
題名通りバイオレンスがさく裂するガン・アクションを期待させるんだけど、
なかなかそうは問屋が卸さない。
ポールと愛犬アビーの仲睦まじいところを丁寧に描いたりして、
それゆえにアビーが無残に殺されたことで、
復讐に燃えるポールの心情に説得力を与えているんだけど、
マカロニ・ウエスタンみたいな派手な残酷描写は抑え気味で、アッサリ風味。

町に戻る道すがら、ポールに淡い恋心を抱いた宿屋の少女メイと再会するんだけど、
復讐のことで頭がいっぱいのポールは、つれない態度。
メイは16歳ながら人妻で、夫は遠くに出かけたままらしく、姉のエレンと共に、
病気の父に代わり、宿屋を切り盛りしている。
どうも、夫への愛情はとっくに失ってるようで、
ポールに新しい人生の夢を託そうとしている節があるようだ。

ポールは、元軍人で、軍隊に入るために妻子を捨てたという後ろめたい過去があり、
いまだに捨てた家族のことが気になっているようで、メキシコを目指しているのも、
そこに家族がまだ待っていてくれるのではないかと淡い期待を持っているからだ。
だから、メイが自分に言い寄ってきても、自分の娘と同じ年頃の彼女に
愛なんてものを感じられないわけよ。

ギリーってのは、親の権威をかさに着た、卑劣なバカムスコで、
父に内緒で、自分に恥をかかせたポールが許せず、彼を追いかけ、犬をナイフで刺し殺し、
彼を亡き者にしようとするんだが、凶悪さは希薄で小粒感たっぷり。

だから、ラストは、てっきりトラボルタ扮するギリーの父マーティンと、
ホーク演じるポールの一対一の決闘となると思いきや…。

ウエスト監督は、従来のアメリカン西部劇に彼なりのヒネリを利かせ、
ちょっと毛色の変わったウエスタンを目指したんだろうかな。
マーティンは、町を牛耳ってる割には、顔に威圧感はそこそこあるけど、
憎たらしいまでの極悪人って風情はないし、片足が義足なだけに歩く姿も少々よぼよぼ。
息子のしでかしたことなのに、親として彼が殺されるのは見過ごせないと、
老体ながら銃を構えてポールに立ち向かおうとしたり、妙に人間臭いんよね。

ギリーの恋人がエレンで、彼がポールと撃ちあいを始めようとしたとき、
彼に死なれては困ると思ったのか、突然、あなたの子供を宿したと告白しよる。
これまた、妙に人間臭い。

人間臭いと言えば、ギリーの仲間たちも、
一人は、ポールに銃を向けられ、
もう自分の娘に会うこともできず死ぬのが心残りだなんてつぶやいて殺されよるし、
タビー(デブの意味らしい)と呼ばれる一人は、ギリーのせいで自分が死ぬのがイヤだとほざき、
マーティンからタビーと呼ばれて、「俺の名はローレンスだ」と言い返し、
銃を捨てて立ち去ろうとして、これまたアッサリ殺されよる。

最初にポールに殺されるギリーの仲間のシーンは、
なぜか、ナイフで首をざっくりと切られ、血がドババッと溢れ出て、
ここだけ、ちょいマカロニ残酷テイスト。

どうも監督に、いろいろ迷いがあって試行錯誤した結局、
ヘンなウエスタンが出来上がってしっまたんと違うかな。
どうせなら、マカロニ・ウエスタンへのオマージュ全開の
残酷描写バリバリ、スカッと豪快な作品にしてほしかった気もするやんかいさぁ。

イーサン・ホークは、監督もこなすベテラン俳優だけど、髭を蓄え、なかなか渋かった。
ジョン・トラボルタは、出番が少ないうえに大して見せ場もなく、ゲスト出演って感じ。
ま、さすがに体からスター・オーラを放っていたけどね。

メイ役は、「記憶探偵と鍵のかかった少女」のタイッサ・ファミーガ。
色白で透明感があって、古風なのにどこか現代的ニュアンスが漂い、
このヘンなウエスタンには、不思議にハマっているかな。
ラストじゃ、なかなか美味しい見せ場が用意されていて、オオッと思わせちゃってくれるし。

それから愛犬アビーを演じたワンちゃん。
荒野で夜、ポールから寒くないかと声を掛けられると、
くるりと毛布を自分の体に巻きつけたり、実に達者な演技を披露しよる。
このメッチャ賢いワン公の演技、もっと見たかったなぁ、ほんまにね。

それからもう一人、オープニングタイトルの前のちょっとしたエピソードで
神父を演じたバーン・ゴーマン。
ちょいヒネくれた個性的な顔立ちの若手俳優だけど、SFアクション「パシフィック・リム」じゃ、
少々オタクな科学者をユーモラスに演じていて、印象深かったな。
本作でも、作品同様にケッタイな味を出していて、映画にピタッとマッチしていたやん。


NBCユニバーサル 2017年4月21日リリース



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プロフィール

森晴樹

Author:森晴樹
大阪市東成区大今里生まれ。大阪市内を転々とし、いつのまにか僕が生まれた町、大今里に舞い戻ってきてしまいました。
情報誌、PR誌の編集・原稿執筆を経て、現在はフリーライター。クロスワード他、クイズ製作もこなしとります。趣味は、DVDで映画鑑賞。

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