「湿地」(06年・アイスランド/デンマーク/ドイツ) 「このミステリーがすごい!」選出のアイスランド作家のミステリー小説の映画化なんだけどねぇ!

湿地
僕が、アイスランドのミステリー作家アーナデュル・インドリダソンの小説「湿地」を読んだのが今年の6月ごろ。
確か、書店で彼の小説「緑衣の女」の文庫本が目立つように並べられていて、手に取って後書の解説を読んだら、北ヨーロッパで最も優れたミステリに贈られるガラスの鍵賞を前作の「湿地」に続いて受賞したとか書いてあって、ちょっと気になり、自宅近くの東成図書館にあるかなぁと探しに行ったら、単行本が3冊あったので、まずは「湿地」を借りて読んだんだ。

で、柳沢由実子さんの翻訳も良かったのか、すいすい読めたし、なかなか面白かった。ただ、アイスランドの地名や人名が耳慣れない長ったらしいものが多くて、最初は少々戸惑ったけど。巻頭に物語の舞台となるアイスランドのレイキャヴィックの地図があったので、何度も見直したやんかいさぁ。
続いて日本では翻訳2作目の「緑衣の女」を読み、3作目の「声」も読んだんだ。
いずれも期待にたがわず面白く読めたわ。
4作目の「湖の男」の翻訳本が今年の9月に発売されたので、図書館で貸し出し予約を入れたけど、人気があるのか、まだ未読でおまんにやわ。

そんな、00年に発表され、12年に日本で翻訳本が発売された「湿地」の映画化作品がリリースされると知り、どんな風に映像化したのか興味津々、レンタルしたんよね。
06年制作の映画だから、11年目にしてのリリース(劇場未公開)だが、なんで今頃とも思ったけど、A・インドリダソンの名前が日本でもそこそこ知られるようになってきたんかなぁ。僕の周囲の人間は誰も彼の名前を知らなかったけど。
多分、知っているのはミステリーや推理小説好きの間だけなんやろなぁ。
なんでも、北欧映画祭「トーキョー・ノーザンライ・ツフェスティバル2015」で上映されたらしいけどね。

さて、映画版「湿地」。
原作の脚色に関しては、小説で後半に登場する重要な人物を最初に登場させたり、
少なからず構成を変えたところはあったけど、大幅な変更はなく、小説通りに物語は展開していたな。
小説でもそうだけど、過去の出来事により、哀しい運命にさらされた人間たちの心情を描いた人間ドラマ的要素が強いミステリー小説だけに、それをより明確に見る側に伝えるために構成し直したんだろうな。
90分ちょっとの尺なので、長編小説をコンパクトにまとめ過ぎてるやんとも思ったけど、
途中でダレることもなく、さくさく展開するのも悪くないかなぁ。
主人公のエーレンデュル警部に扮したイングヴァール・E・シーグルソンも、
小説のイメージに近い気がしたしね。

舞台はアイスランドのレイキャヴィック。
あるアパートで老人ホルベルグの死体が発見される。
捜査にあたったのは、エーレンデュル警部と
部下の女性警官エリンボルグと男性警官シグルデュル。
被害者の部屋を調べたとき、机の引出しの裏から古い封筒を見つけ、
中に海沿いに立つ墓の写真が入っていた。
墓に刻まれた故人の名前を調べ、それが4歳で亡くなった少女の墓と判った。
そして、被害者との関係を探っていくうちに、過去に起きた忌まわしい出来事が次々と明らかになり…。

冷え冷えかつ荒涼としたアイスランドの風景の中、
物語は、捜査を続けるエーレンデュルや部下たちの行動が、タイトに描かれていく。
監督は、「ハード・ラッシュ」(12)「2ガンズ」(13)「エベレスト 3D」(15)など、
後にアメリカ映画を撮るようになったアイルランド出身のバルタザール・コルマウクル。
「ハード・ラッシュ」は、インドリダソンも脚本に参加しているところを見ると、
コルマウクルと親しい関係にあるのかも知れないな。
あまり、独自の演出センスってのは感じないけど、登場キャラをそつなく描き分け、
地味でメリハリに乏しいけど、そこそこの切れ味でストーリーを運んでいくやん。
重要な人物を原作と違って最初に登場させたことで、
時間軸的に少々混乱を生じさせる部分があるのが、ちょっと残念な気もするけどね。
コルマウクルは、脚本も手掛けてるけど、それなら、
映像的にもう少し工夫を凝らすとかしたら良かったのに。

エーレンデュルと、非行に走ってドツボ状態の娘エヴァとの関係など、
サイドストーリーを、メインの事件の結末と絡める、エーレンデュルが呟くラストのセリフは、
じんわりと切なさが漂い、いい感じだったけどね。

結局、自分ではどうにもできない現実を前に、“負の遺産”を絶とうとして起きた哀しい事件。
そして、結末もまた…。
こういう、もの悲しい話に、良くも悪くもアイスランドの風景がピッタンコとハマるなぁ。
監督も、それを意識したのか、俯瞰による風景を度々差し挟んでる。

それに、レクイエムを思わせる女性や男性のコーラスが、
哀しい人間の運命をなだめ、死者の安息を願うように流れるのも、なんかしんみりさせよる。

エーレンデュル警部に扮したイングヴァール・E・シーグルソンは、
ネットで調べたらアイルランドのレイキャヴィック出身で63年生まれ。
地味な風貌だが、渋さが滲む男優さんで、「エベレスト 3D」にも出ているけど、
実直に仕事をこなしながら、どこか孤独感を漂わせてる主人公を好演。
ちょっぴり寂しげなたたずまいが役にハマってるな。

脇のハンサム刑事シグルデュル役ビョルン・フリーヌル・ハラルドソンや
太目の女性刑事エリンボルグ役オーラフィア・フロン・ヨンスドッティルも、
多分アイスランドの俳優さんじゃないかと思うけど、
2人が、作品にちょっぴりユーモアをプラスしていて、いいアクセントになってる。

そして、物語の鍵となる、
娘をある病気で亡くした遺伝子研究会社で働くオルン役のアトゥリ・ラフン・シーグルスソン。
繊細そうな顔立ちで、自分の哀しい過去を知ったが故に心に渦巻く苦悩を、手堅く演じている。

しかし、アイルランドの俳優の名前って、一度じゃ覚えられないものばっかりやん。

ミステリーだから、あまり内容を詳しくは書けないけど、
ジャケットのコピーにあるような「世界的ベストセラーを完全映画化」とまではいかないが、
北欧ミステリーにちょっぴり触れてみるって気持ちで見ると、
小説を未読の映画ファンなら、それなりに楽しめるんとちゃう、と思える作品であ~りました。
ほんまにね。


アメイジングD.C. 2017年11月2日リリース



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プロフィール

森晴樹

Author:森晴樹
大阪市東成区大今里生まれ。大阪市内を転々とし、いつのまにか僕が生まれた町、大今里に舞い戻ってきてしまいました。
情報誌、PR誌の編集・原稿執筆を経て、現在はフリーライター。クロスワード他、クイズ製作もこなしとります。趣味は、DVDで映画鑑賞。

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